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妖艶なスピリチュアルの語り手:田口ランディ著「キュア」(2008)

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少々問題のある著者ですが…

田口氏の著書といえば、全体的にかなりスピリチュアル性描写が生々しいものが多く、受け付けない人にはグロテスクに感じるかもしれません。しかしその筆致は素晴らしく、独特の世界観に引き込まれればはまること間違いなし。
私はといえば、彼女の代表作でもある『コンセント』『アンテナ』『モザイク』の三部作に非常に感銘を受けた一人です。

ただ残念なことに、複数の著書に盗作疑惑があり、実際にご本人が認めたものもあるようで…。
しかしこの盗作というものは、どの程度、どこまで、何を指して、があいまいなことが多い。
いずれにせよ彼女の洗練された文章や、特異な感性が反映された作品の数々は、決して猿真似で表現できるものではありません。その点を踏まえて、少々擁護したいとの思いから作品をご紹介します。

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ヒーリング能力のある少年が医師に

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スピリチュアルを否定して医学の道へ進む主人公

というわけで一応疑惑のケチがついていない本作「キュア」をご紹介。
主人公である斐川竜介は、医師でありながらスーパーナチュラルな「力」をもち、しかし科学者としてそれをどこかで頑なに否定している人物です。

実は祖母がシャーマンで、ある種の英才教育を施されるような環境にありました。
彼は幼い頃、たまたま目の前で命の尽きかけた小鳥に遭遇。本能的に触れたところ、蘇生させることができました。しかしその代わりとなるように、自身の体に異変が起きます。
ヒーリング能力を自覚したものの、その危うさゆえに、彼は自身の能力にブロックをかけるようになりました。

感知能力と医学を融合

そんな中でも、自分が感じ取る「生命」の神秘には抗えません。そしてその生命が宿る「肉体」への興味が高じ、竜介は迷うことなく外科医の道へと進むことになります。
もちろんしっかりと医学を習得し、いたずらにヒーリング能力を利用したりしません。
彼は目で見るように腫瘍の存在を感じ取ることができました。それを神業のように適切に取り除ける高い技術を併せもつ彼は、今や優秀な「手術マシーン」と化しています。
しかしそれらの手術は、彼にとって「趣味」の範囲であり、そこに正義感や達成感があるわけではありません。

肉体は一つの情報系だ。トラブル対応の素早さ適切さには感服する。だが、もうソフトが古い。まだ石器時代のソフトを使っている。環境の変化が速すぎて、大脳皮質コンピュータのヴァージョンアップが追いついていない。それが多分「病い」の原因だ。古いソフトを使っているので、ときどきチグハグな対応をしてしまう。ストレスを感じただけで血小板を増やしたりする。石器時代のストレスは、猛獣との格闘。すぐに止血準備。そんなことを今でもするから血が固まって動脈硬化が起こる。古い情報で組まれたソフトが作動しているからだ。

手術中の描写です。論理的なのか感覚的なのかわからない。
ガン(腫瘍)というものの受け止め方。よく調べこまれた知識が、たぐいまれなる感性とあいまって、卓越した筆致で力強く紡ぎ出される文章はさすがとしか。
久しぶりに読み直してみて、その確かな読み応えに、改めて感動しました。
これこそが田口氏の、オカルトロジカルの融合。

命を削る「能力」に向き合う先にあるのは

機械的に手術をこなす竜介。彼にはさらに、患者の意識に同調し、その意識を「あるべき」状態に整え、肉体的な痛みや、精神的な苦しみをやわらげるキュア(治癒)」と呼ぶべき力がありました。
しかしその力は彼を消耗させ、時に混乱させます。それでも自然と、その力を発揮してしまう。

次第に抑えられなくなるヒーリング能力

そんな彼のもとに、同じ病院に勤めるという看護師の女性が突如として現れ、竜介が特別な血筋であることを知らされます。そして彼の肉体が、死病に侵されていることも。
はじめは一笑に付して取り合わなかった彼も、次第に自身の不調を自覚し、自分のもつ「力」の出自や在り方を、見つめざるを得ない状況へと追い込まれていきます。

彼女以外にも、竜介の能力に触れた元患者や、その特異さに気が付く医療関係者が現れ始めます。
彼を取り巻くそのような人々に、半ば導かれるように竜介は自分を受け入れていきます

ガンと戦う人やその家族に重く響く作品

個人的な話になりますが。私の母は、初期の乳がんが発覚後、闘病すること2年半。結果的に腫瘍が全身に転移して亡くなりました。
「初期の乳がんなんてすぐ治るでしょう?」と、はじめは大したことがないと思っていたし、母はとても健康に見えた。
しかし腫瘍力強く、人間はただ無力でした。そして母が感じ続けたであろう痛み恐怖
それらを目の当たりにした身内にとって、この作品は実にリアルです。
もしかしたら闘病真っ只中の方や、そのご家族には辛すぎるかもしれません。
逆に何らかの、決着を得た人であれば共感は多いと思います。

おすすめとは言い難いかもしれません。
それでもやはり少なくない読書経験の中で、一目おく作者、そして輝きを放つ一作であったことはお伝えしたいと思います。

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