心理学のひも解くハルキワールド「村上春樹、河合隼雄に会いにいく」(1996)河合 隼雄・村上 春樹 対談

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臨床心理学第一人者の講演に感銘!

私が教育学部生だった97年、読書好きで勉強家の友人が「すごくためになる」と誘ってくれたのが、日本の臨床心理学におけるパイオニア河合速雄氏の講演会でした。
確か教育関係者向けの、児童心理学に関するお話という案内だったかと。おそらく補助などがあって、入場料も500円程度だったでしょうか。まあそのくらいの金額ならいっか~、となんの知識もないまま参加いたしました。

勉強嫌いのダメ学生ながら、とにかく読書は好きだった私。河合氏が語る、子どもたちの成長に欠かせない「物語のもつ力」には、非常に胸を打たれました。
何より、力強く語るその口調には端々まで子どもたちの可能性を信じる心が感じられます。私が人生で初めて出会った「この人、本物だ」という感触でした。

その後、氏の著書をいくつか拝読させていただき、ロジカルながら温かみのある文体にさらに惹かれ、もともと興味のあった「心理学」にも、ますます関心を抱くようになったものです。

河合隼雄とは何者か

難関大数学科の学生が心理学に転向

国内最難関大学の一つ京都大学で数学を学んでいた、国内トップ・オブ・ザ・トップの理系であった河合氏。ところが専門とは異なる心理学者フロイトの「夢判断」に感銘を受け、その世界にのめりこんだそうです。
その後、心理学や教育学を学んだ人にはお馴染み「ロールシャッハテスト」の実践を通して、京都大学大学院にて心理学の土台を築き、日本人として初めてスイスのユング研究所へ足を踏み入れることになります。

「箱庭療法」を日本へ紹介

ところで「箱庭療法」をご存じでしょうか。
心理療法の一種で、セラピストが「見ている」状態で、患者が箱の中に思い思いの世界を表現する手法です。ドラマや本などで存在を知っている方も少なくないのではないでしょうか。河合氏はそれを日本に紹介した人物でもあります。
心理学、それもただ机上におけるものでなく「臨床的な」心理学を発展させた立役者といえるでしょう。

大好きな作家と尊敬する心理学者がまさかのコラボ!

ところで私は高校生以来「村上春樹作品」に傾倒していた、軽めの「ハルキスト」です。ガチとはいいたくない。とはいえ著書はもちろん読みつくし、新作が出るのを心待ちにする、普通に大ファンではありましたが。
そんな20代の小娘が、この本を目にした時の衝撃を想像していただけますでしょうか。
河合氏とハルキに接点があったなんて!大興奮してすぐさま冊子を購入したものです。
まあ当時より四半世紀以上たった今にして思えば、さもありなんな組み合わせではありますが…。
というわけで本書の内容より、お二人のことについての紹介、になるやもしれません。

村上春樹に心酔した高校時代

私が村上春樹作品を初めて手にしたのは高校生の時、ベストセラー『ノルウェイの森』でした。単純に、あの赤と緑のシンプルにして美しい装丁に惹かれたからですが、いざ読み始めるとその世界観は青天の霹靂。独特な文体にも特異なストーリー展開にも、一気に心を奪われました。
その後は学校の図書館にある著書をすべて読みあさり(幸い全作品あった)、さらに嘗め回すようにすべて再読までしたものです。
そうして当時の最新刊『ねじまき鳥クロニクル~第3部~鳥刺し男編』が書店に並んだのは高校3年生の時でした。学校の図書室に入るのなど待ちきれず、私が人生で初めて購入したハードカバーの本でもあります。
みんなが赤本を開く教室で、うっとりその分厚い本に読みふける私に、クラスメイトはドン引きしてたなあ。そもそも勉強したくなさ過ぎて、特に狂ったように小説ばかり読んでいたヤバい奴でした。

「ねじまき鳥」をベースとした対談は完全ファン仕様

改めまして紹介したいこの本は、そんな二人の対談集です。「前書き」としていかにもハルキ的な序文で始まり、河合氏の奥ゆかしい「後書き」で締められます。

村上春樹文学の世界観を心理学者がひも解く

村上氏が件くだんの長編『ねじまき鳥クロニクル~第3部~鳥刺し男編』を執筆中に行われたこの対談。第1部と第2部を主題として「その物語の世界観を、筆者自身と心理学の第一人者が読み解く」ファンにはたまらない構造になっています。

この物語を読まれていない方にはちんぷんかんぷんかもしれませんが、読んだ方なら高速でうなずくノモンハン事件のくだりのトラウマ具合、そしてハルキワールドさく裂の「井戸の壁向け」が物語の核である点をなどが語られます。

日本人目線の「物語のもつ物語性」

先の講演のように、河合氏は物語のもつ力をよく知り伝えるお方です。
村上氏は「雨月物語」に触発された人物でもあるので、日本に古くからある物語のもつ力を感じているおひとりです。
そんな二人の語る「紫式部」の世界観や、それらに見る「日本人」のある姿。

お二人ともアメリカで長く暮らし「英語」という言語に造詣が深く、その表現の特性をよくご存じでいらっしゃいます。そのうえで彼らの考える「日本語」や「英語の日本語訳」についての洞察も興味深いです。

アンチハルキはお目こぼしください

随所に但し書き(というよりサイド執筆)があるのも読み応えあり(アンチハルキにはうっとうしいはず)です。
正直村上春樹ファンと河合氏信奉者以外には勧めがたい一冊ではあります。

しかしそのうえで二人の大ファンとして、あらゆる方にへ手にしてみることも推奨したい…。まあそんな偏ったたわごとに、興味が芽生えたかがいらっしゃれば幸いです。

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