少年犯罪の裏側に「ケーキの切れない非行少年たち」宮口幸治(2019)著

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はっと目を引くタイトルのこの本。私も書店で目にして、すぐに気になって購入しました。
児童精神科医である著者が、少年院の中でも精神疾患や知的障害を抱えた少年たちが収容される「医療少年院」の勤務経験をもとに著した話題作です。

「ケーキが切れない」とはどういうこと?

ここで出会った子どもたちの多くは、凶悪犯罪を起こしたにもかかわらず、自分の罪を犯した意識が低く、被害者の気持ちを推察できない様子が見受けられました。
なぜ彼らは内省や反省ができないのか。その認知機能を見定めるために、宮口氏は子どもたちに「円を3等分」するように指示します。すると彼らは「等分」にはおよそなりえない、信じがたい線の入れ方をしました。それがこの本のタイトルの由来です。
タイトルだけではなくその中身もセンセーショナルでベストセラーとなり、小説化、漫画化、ドラマ化もされています。

医療少年院で見られる「境界知能」の子どもたち

「少年院」といえば、非行に走った子どもたちが収容される施設として、皆様ご存じのはずです。
「医療少年院」はその中で、身体的・精神的なケガや病気はもちろん、身体障害者や知的障害者、および精神的な情緒不安定者が収容され、専門的な矯正教育が施される機関です。

明確な「知的障害」ではないゆえの弊害

そこで多くの非行少年に接してきた著者は、彼らの多くが「自分の犯した罪に向き合う」「被害者の気持ちを考える」といったことが、そもそも困難である点に着目しています。
明白な「知的障害(IQ70ないし75未満または以下)」とは異なるものの、複雑な問題を思考する能力が低い「境界知能(IQ70以上85未満の状態)」の子どもたちだと思われるためです。
筆者はこの著書の中で、この境界知能の子どもたちへの懸念を本筋としています。

私自身、大学で障害児教育が専門だったため、境界知能に関しての知識は一応ありました(現場には出ていませんので、学生の知りうる授業内容程度ですが)。
しかし往々にして、一般の小・中学校で「健常者」を対象とする現職の教職員の多くは、そこに一定数存在しているであろう「境界知能」の子どもたちへの理解が乏しい。
それが危惧されていることも、当時から知っていました。「知的障害」のテキストに「精神薄弱」という酷い名称が使われていたような(テキストの改定が間に合っていないだけで、今は使わない言葉、と授業で念押しされましたが)90年代時点で、です。

通常の学校や一般社会で生きづらい彼ら

彼らは一見「普通」の子どもですので、ほとんどが早期の適切な支援を受けることがありません。
しかし実際には学習困難(授業が理解できない)はじめ、認知の歪みによる被害者意識(目が合っただけで「睨まれた」等)のため、日常生活全般に支障を来し苦しんでいます。
親や教師からは「不真面目」「怠けている」とレッテルを貼られ、同年代の子どもたちとはコミュニケーションがうまく取れずいじめられる。そんなストレスや他者との軋轢から、犯罪の加害者となるケースが散見されるのです。

周囲が理解することの大切さ

近年「アスペルガー症候群」や「発達障害」が広く認知され、生きづらさを感じてきた人たちが、大人になってその原因を知るにいたりました。
この「境界知能」についても、自らがそうであることを告白する著名人もいます。
しかし先の二つの障害は知的には高い場合も多いため、表向きには教育機関にマッチ(それゆえの問題もあるようですが)することができます。

一方境界知能の子どもたちは確実に知能面で弊害があるため、より早い段階で「学校」という組織から脱落しやすくなります。
そこに家族の理解なり、知識のある支援者なり、何らかの受け皿があればよいのですが。
そうでなければ、社会に適合できず受け入れられず、件の「医療少年院」に行きつく少年・少女が生まれる背景となりかねないのです。

そんな「加害者」でありながら、社会が生み出した「被害者」である彼らを目の当たりにした筆者の思いが、この本には切々とつづられているのです。
これは社会全体が抱える課題です。
多くの方にこの本を通して、知っていただけたら幸いです。
彼らのエピソードがふんだんに詰まった、漫画版もぜひ。

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