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「言ってはいけない―残酷すぎる真実―」(2016)橘 玲 著

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物価高騰の波で気軽に新刊が買いづらくなってきたので、市立図書館をフル活用中のワタクシ。
改めて、ロングベストセラーは普遍的で刺さるものが多いなあ、と実感しております。
というわけで本日は、未読だった2017年新書大賞作品を手にした感想などを少々お伝えいたします。

ところで1999年に出版され大ブームとなった書籍買ってはいけないを覚えていらっしゃいますでしょうか。誰もが日常的に使う有名メーカーの市販品を実名で挙げ、その成分や仕組みの「危険性」を指摘する形で取り上げた内容で話題となりました。しかし極論かつ信憑性に乏しく物議をかもした本でもあります。
その後その反論本(買ってはいけないは買ってはいけない)やタイトルをもじった類似本、そもそも極論本のジャンルも一気に増えました。
ですから実を言うと私はこの「言ってはいけない」も、またそのたぐい?と誤解して読み損ねていたのです。
しかし最近たまたま何かで取り上げられていて興味がわき、そもそも新書大賞なのだからマユツバもののはずないじゃん、と遅ればせながら手に取った次第です。

とまあ前置きが長くなりました。
ところで著者はまえがきにて、この本を「不愉快な本」とおっしゃっています。
タブーともいえる多くの「神話」に切り込み、反論したくなるような「不都合な真実」を題材にしているためです。
実際の目次(新潮社HPより)が次の通りです。

I 努力は遺伝に勝てないのか
【1】遺伝にまつわる語られざるタブー
馬鹿は遺伝なのか/依存症・精神病は遺伝するのか/犯罪は遺伝するのか
〔コラム1〕遺伝率
〔コラム2〕遺伝と犯罪
【2】「頭がよくなる」とはどういうことか――知能のタブー
親の収入と子どもの学歴の関係は/人種とIQについてのタブー/差別のない平等社会をつくれないワケ/「知能格差」の真因とは
〔コラム3〕ユダヤ人はなぜ知能が高いのか
〔コラム4〕アジア系の知能と遺伝
【3】知識社会で勝ち抜く人、最貧困層に堕ちる人
経済格差の根源は何か/超高学歴でエリート主義のスノッブたち/強欲な1%と善良で貧しい99%/日本社会に潜む「最貧困層」
【4】進化がもたらす、残酷なレイプは防げるか
犯罪は「凶暴な男」の問題/進化のために赤ん坊が殺される/妻殺しやレイプを誘発する残酷な真実/オランウータンもレイプする/夫婦間のレイプはなぜ起こるのか?
〔コラム5〕実の親と義理の親の子殺し
〔コラム6〕家庭内殺人と血縁
【5】反社会的人間はどのように生まれるか
こころを支配するもの/心拍数と反社会的行動の因果関係/犯罪者になる子ども、実業家になる子ども/「発汗しない子ども」は良心を学習できない/「賢いサイコパス」と「愚かなサイコパス」/少年犯罪者や異常性欲者への驚愕の治療法/脳科学による犯罪者早期発見システム/子どもの選別と親の免許制/非科学的な人権侵害よりも脳科学による監視社会を
〔コラム7〕犯罪と妊婦の喫煙・飲酒
II あまりに残酷な「美貌格差」
【6】「見た目」で人生は決まる――容貌のタブー
写真から性格や未来がわかる/外見から知性は推測できる/「最初の直感」の的中率/「面長の顔」は「幅の広い顔」に殺されている/顔立ちによる残酷すぎる損得
【7】あまりに残酷な「美貌格差」
美人とブスでは経済格差は3600万円/「美貌格差」最大の被害者とは/会社の業績を上げる経営者の顔とは/容姿による差別を生む市場原理
【8】男女平等が妨げる「女性の幸福」について
「男と女は生まれながらにしてちがっている」/男と女は別々のものを見ている/「男らしさ」「女らしさ」の正体とは/「母性愛」のもと、オキシトシン/男女でちがう「幸福の優先順位」
〔コラム8〕女子校ではなぜ望まない妊娠が少ないのか
【9】結婚相手選びとセックスにおける残酷な現実
一夫多妻と一夫一妻はどちらが得か/メスの狡猾な性戦略/避妊法の普及が望まない妊娠を激増させる/低学歴の独身女性があぶれる理由
【10】女性はなぜエクスタシーで叫ぶのか?
ヒトの本性は一夫一妻?/睾丸とペニスの秘密/女性の性衝動は弱いのか?/チンパンジーとボノボ/農耕社会がすべてを変えた?/女性がエクスタシーで叫ぶ理由/フリーセックスのユートピアは遠い
III 子育てや教育は子どもの成長に関係ない
【11】わたしはどのように「わたし」になるのか
双生児の奇妙な類似/「高貴な血」と「穢れた血」/遺伝するもの、しないもの/「こころの遺伝」の明暗
【12】親子の語られざる真実
「氏が半分、育ちが半分」の真偽/言語・宗教・味覚にまつわる遺伝の真相/子どもはなぜ親のいうことをきかないのか
【13】「遺伝子と環境」が引き起こす残酷な真実
同じ遺伝子でもちがう性格になるケース/「選抜された22人の少年たち」の実験/黒人少年が生き延びるたったひとつの方法/英才教育のムダと「バカでかわいい女」

なるほど、なかなか不愉快そうな項目が並んでいます。
とはいえ先の問題本と違って「すべてエビデンスがある」内容を扱っているとされており、末尾に参考文献が多数載せられている徹底ぶりは信頼に値するところ。

まず第一章では、さっそく犯罪が遺伝に大きく依拠することが書かれています。
世の人々が信じたい「人は環境で変えられる」という神話にまっこうから対抗するものです。

以前ご紹介した『ケーキの切れない非行少年たち』では、境界知能の子どもたちに焦点が当てられていました。
理解力の乏しさや認知の歪みから、犯罪を犯してしまう彼ら。ここでは遺伝については触れられていませんでしたが、生まれながらの特性がもたらす悲劇については考えさせられました。

この「言ってはいけない」では、さらに遺伝的要素環境(教育)では簡単に覆らない事実について述べられています。
それにしても体質や能力が遺伝で引き継がれるのはわかるとして「犯罪が遺伝する」という表現まで持ち出すのは、なかなか衝撃的です。
しかし親がどんなに愛情をかけて育てても、どれほど質の高い教育を施しても、凶悪犯罪者となってしまった例は枚挙にいとまがありません。

この本では実際に、同級生を惨殺した少女の実例が挙げられています。
弁護士の父を持ち恵まれた環境で育ちながら、中学生で母親を亡くしたという「かわいそうな」少女責任の矛先は、若い女性と再婚した父親に向かいます。
しかし彼女は母親が存命中の小学生の時点で、ネコを解剖したり給食に異物を混入させたりするような異常行動をすでに引き起こしていました。
事件以前にも父親との折り合いが悪くなった際、金属バットで寝込みを襲うといった凶行にも及んでいます。

生まれ持った脳の器質や精神的な病といった、遺伝的レベルで強い犯罪衝動があったのは間違いないでしょう。
けれど世間は「父親が再婚したりせず、娘に愛情深く接していれば」と暗黙の批判を加えました。
そうして父親は娘の犯罪のわずか2か月後、自ら命を絶ったということです。
このことについて筆者は次のように述べています。

異常な犯罪がなんの理由もなく行われる、という不安にひとは耐えられないから、こども(未成年者)が免責されていれば親が生贄になるのだ。


話は変わりますが、これを逆手に取った海外ドラマ『デクスターは、目の付け所がなかなかよいです。
生まれつき殺人の衝動が抑えられない主人公。このままでは連続殺人鬼になるのは必至です。
機転の利く養父は、どうしても殺人を犯すならば「悪人だけ」殺すように、斬新な教育で彼を刑事に育て上げます。
まあこれは所詮ドラマですし、現実的な対応策ではありませんが。
このドラマが成立するのは、生来の気質そのものを矯正するの不可能に近いということを、世の中自体が認知しているという証拠でしょう。
この本では、反社会性パーソナリティ(サイコパス)についても多く触れられ、そんな犯罪予備軍の現実についても取り上げられています。

また犯罪が遺伝に関連することの説明として、動物による「レイプ(メスの合意なき性行為の無理強い)」を例に挙げているのも衝撃です。
モテないオスが遺伝子を残すための本能的なこの行動。
そして人間においても、圧倒的に男性犯罪者が多いという事実に着目します。
精子をばらまくのが本質でありながら、いざ生まれた子どもが本当に自分の子どもか知るすべのない男性の特性。それが妻への暴力や子殺しにつながるのは確かでしょう。

さらに美貌格差にも切り込みます。
以前ご紹介した『人は見た目が9割』では、「見た目」=「非言語コミュニケーション」の影響について述べられていましたが。
ここではさらに顔(見た目)に現れる遺伝子の特徴から、知能や性格を高い精度で見破れる人間の能力を取り上げています。
しかしここで、本能的「思い込み」による差別が生じる可能性について述べられているのもまた興味深いところです。

知能格差についてはもっとショックを受けるかもしれません。
私は教育学部でしたので、親と子の「負の連鎖」について学んだときは無力感を覚えたものです。
貧しい家庭では教育が十分に受けられず、大人になっても貧困から抜け出せない。すべては「環境の問題」だと思いましたし、そう習ったようにも記憶していますし。
しかしこの本では、必ずしもそうではない点に触れられています。
黒人の貧困は環境だけでなく、実際に知能が低いからだという、リベラルな社会ではおよそ口外できないようなお話。
確かに、人種における黒人全般の身体能力の高さや音楽的才能については認めても、「知能が低い」というのは慌てて否定するのはある意味人情です。
しかし「知能は遺伝する」もの。長い歴史の中で「知能」よりも「運動能力」が重要な社会で受け継がれた遺伝子が、どちらに長けるかはいわずもがな。
といっても「人種差別」への抵抗から、人種で知能が異なる(まして劣る)というのは受け入れがたいものです。
白人と黒人の経済格差について語る時、黒人が置かれてきたひどい環境を原因とした方が、リベラルな白人たちにはずっとすわりがいい。だから入試や就職に黒人枠を設け、それで歴史的な過ちを是正できると思いたい。

2015年フランスで、風刺雑誌の編集部が過激派組織に襲撃された事件がありました。
言論の自由を揺るがす出来事として、私も強く記憶に残っています。
筆者はあとがきにて、この事件の際に「テロは言語道断だが下品な風刺画を載せた方も問題だ」「ひとが嫌がるようなことをする表現の自由はない」と日本の新聞社が宣言したことが、この本を書いたきっかけだとおっしゃっています。
一見正しい意見のようですが、「誰も不快にしない表現」しか許されないのであれば、それはかつて権力者に「不快」を理由に言論が制限された時代への逆行です。
筆者はそこへ一石を投じるべくこの「不愉快な」本を書きました。
みなさんもどこかで『バカの壁』に阻まれ、不都合な真実から目をそらしていませんか。
この本を通して、凝り固まった「既成概念」にハッと気が付く体験をおすすめします。

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